企業の経営者が引退を考えるとき、あるいは会社の将来を考えるとき、後継者をどうやって確保するかはかなり重要な問題です。後継者がいれば、事業承継のための引き継ぎや育成などの具体的な準備を進められます。しかし、後継者がいない企業においては、事業の存続さえままならない事態に追い込まれてしまいます。
今、企業の間で深刻化しているこの後継者不足の実態とは、どのようなものなのでしょうか。また、その背景にはどのような原因があるのでしょうか。後継者不足の解消に向けてどのような対策が取れるのかも含めて解説します。
後継者不足とは?
後継者不足は、会社経営を引き継ぐ後継ぎがいない状態を指します。
かつては、子どもが親の家業を引き継ぐことが一般的でしたが、大学教育の一般化などにより職業の選択肢が増えて、子どもは自分の好きな道に進む傾向が強くなってきました。また、少子化の進行により後継者となる子どもの絶対数が少なくなったことも相まって、後継者不足に悩む企業が増えています。
一部の企業では、後継者不在が原因となり廃業に追い込まれるケースもあります。企業が廃業することは、そこで働いてきた従業員の収入源やキャリアアップの道が絶たれるだけでなく、企業で培われてきたノウハウや技術が失われることも意味します。
後継者不足問題は、1つの企業だけではなく、日本経済全体に影響を及ぼす問題なのです。
後継者不足の現状
後継者不足が深刻化していることは前述しましたが、具体的な現状はどのようなものになっているのか、いくつかの観点から解説します。
半数以上の中小企業で後継者が不在
帝国データバンクが発表した『全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)』によると、調査対象となった約26万6000社のうち、約16万社(61.5%)が、「後継者がいない」または「後継者は未定」の状態にあるとの結果が示されました。
2021年度の不在率は、2011年の調査開始以降の10年間では最も低い数値です。理由として、コロナ禍により高齢の代表者が経営を担っていた企業を中心に、後継者を決定する動きが強まったことが挙げられます。また、地域金融機関を中心としたプッシュ型のアプローチ、第三者へのM&Aや事業譲渡、ファンドを経由した経営再建併用の事業承継など支援サービスが全国的に整ったことも、後継者問題の解決・改善に大きく寄与しました。それでも依然として、6割以上の企業が何らかの後継者問題を抱えていることから、事態が危機的状況であることに代わりはありません。
さらに、日本政策金融公庫の調査によれば、60歳以上の経営者のうち50%以上が、将来的な廃業を予定しているとのことで、このうち後継者不在を原因とする廃業が約3割を占めています。
(参考:帝国データバンク:全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年))
年代別の後継者不在率
年代別 | 2021年 | 2020年比(1年前) | 2011年比(10年前) |
---|---|---|---|
30代未満 | 91.2 | △1.5pt | +2.4pt |
30代 | 89.1 | △2.0pt | △0.5pt |
40代 | 83.2 | △1.3pt | △2.7pt |
50代 | 70.2 | +0.8pt | △2.7pt |
60代 | 47.4 | △0.8pt | △7.1pt |
70代 | 37.0 | △1.6pt | △5.7pt |
80代以上 | 29.4 | △2.4pt | △4.7pt |
全国平均推移 | 61.5 | △3.6pt | △4.4pt |
2021年度の不在率を年代別で見ると、30代未満を除き、いずれの年代も10年前と比べて不在率が低下しています。
前年比で見て、唯一増加した50代では、ほぼ7割が後継者不在の状態です。ボリュームゾーンである60~80代以上では、不在率が前年を下回ったものの、60代はほぼ半数、70代は4割近く、80代以上も3割近くが後継者不在の状態を示しています。
健康面から見ても、50~80代以上が抱える後継者不足は深刻化しており、特に人材不足が顕著な50代のテコ入れは急務と考えられます。
業種別の後継者不在率
業種別 | 2021年 | 2020年比(1年前) | 2011年比(10年前) |
---|---|---|---|
建設 | 67.4 | △3.1pt | △2.2pt |
製造 | 53.7 | △4.2pt | △4.9pt |
卸売 | 59.1 | △3.9pt | △5.2pt |
小売 | 63.7 | △2.7pt | △2.1pt |
運輸・通信 | 57.6 | △3.9pt | △6.1pt |
サービス | 66.5 | △3.2pt | △5.6pt |
不動産 | 62.8 | △4.7pt | △5.2pt |
その他 | 50.8 | △3.6pt | △4.7pt |
全国平均推移 | 61.5 | △3.6pt | △4.4pt |
業種別で不在率を見ると、全業種で前年度を下回ると同時に、70%を下回りました。10年前の2011年度と比較しても、全業種で下回っています。
それでも、全業種で半分以上の後継者不在率を示していることから、業種を問わず後継者不足がいまだに深刻であることが伺えます。不在率が最も高いのは建設業の67.4%、2番目に高いのがサービス業の66.5%、3番目が小売業の63.7%です。最も低い製造業でも53.7%と、高い割合を示しています。
都道府県別の後継者不在率
都道府県(抜粋) | 不在率 | 特徴 |
---|---|---|
鳥取県 | 74.9 | ワースト1位 |
沖縄県 | 73.3 | ワースト2位 |
島根県 | 72.4 | ワースト3位 |
東京都 | 61.6 | ほぼ全国平均 |
富山県 | 61.3 | ほぼ全国平均 |
和歌山県 | 47.5 | トップ3位 |
茨城県 | 45.5 | トップ2位 |
三重県 | 35.8 | トップ1位 |
全国平均 | 61.5 | – |
上の表は、都道府県別の後継者不在率を一部ピックアップしてまとめたものです。不在率が深刻なワースト3は上から順に鳥取県、沖縄県、島根県の3県で、いずれも全国平均を大きく上回り、東京都と富山県がほぼ全国並みの不在率を示しました。
一方、不在率が最も低い三重県、茨城県、和歌山県の3県のうち、唯一4割を下回ったのが三重県です。その背景として、帝国データバンクは、「地域金融機関などが密着して支援を行っていることに加え、経営や商圏が比較的安定している企業も多いなどの理由から、子息など親族が経営を引き継ぎやすい環境が整っている」と説明しています。
(出典:帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年))
コロナ禍で改めて自社と向き合う企業が増加
新型コロナウイルスの拡大感染は、総じてビジネスにマイナスの影響をもたらしました。相次ぐ緊急事態宣言や、一向に収束しないコロナ禍による業績の悪化、将来が見通せないことによる諦めなどが原因で廃業が相次ぎ、廃業件数は過去最多を記録しました。
持続化給付金などのコロナ禍における政府の支援策によって倒産件数は例年よりも低水準で推移したものの、不透明な経営環境に見切りをつけて廃業を選んだ企業が増えたことがその原因とみられます。
コロナ禍をきっかけに、むしろ自社の現状や将来を見つめ直す企業が増えています。
後継者不足の原因
後継者不足は何が原因で起こっているのでしょうか。4つのポイントから解説します。
少子高齢化
後継者不足の大きな原因の1つは、少子高齢化です。日本の企業では従来的に、親から子息への事業承継が大半を占めていました。しかし、1950年以降、一貫して高齢者人口の割合は増加し続け、2021年度は29.1%に達しました。2040年には35.3%になる見込みです。
超高齢化社会に突入した一方で、出生率は低下し続けており、跡を継がせる子どもたちの人数が減っています。
そのため、本来ならば経営交代の時期を迎えているにもかかわらず、後継者不在のままで選択肢がなく、苦境に立たされている高齢の経営者が大勢います。
(出典:統計トピックスNo.129 統計からみた我が国の高齢者│総務省統計局 図表1-1-7 出生数、合計特殊出生率の推移|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省)
事業の将来性
会社の経営状況が思わしくないため、経営者自身が親族や社員に継がせたくないと考えることに加え、そのような状態では苦労を追うのが目に見えているだけに、会社を継ぎたいと思う人がなかなか現れないという事情もあります。
特に今の時期は、コロナ感染拡大が収束する兆しが見えず、先の見通しが立てにくい状況なだけにこの傾向がますます進んでいるといえるでしょう。
そのため、あえて苦しい経営状況の事業を継承させて次世代の負担を増やすよりは、自分の代で会社をたたんでしまう方が、影響を最小限に抑えられると考えている経営者もいます。
準備の遅れ
経営陣側で、会社を次世代に引き継ぐ事業承継の準備を進めてこなかったことも、後継者不足に拍車をかけています。特に中小企業ではこの傾向が顕著です。
事業承継を進めるには、後継者選びや育成、社内外への周知など、さまざまな根回しや準備が必要になります。これらは一朝一夕で成し遂げられるものではなく、長期戦になることを覚悟して、本腰を入れて取り組む必要があります。
しかしながら、事業承継はそうそう頻繁に起こる出来事ではないため、何から着手すればよいのかわからない、あるいは必要性は感じても準備に手が回らないなどの理由で、あらゆる準備が後手に回っている実態があります。
子どもが継ぐことが一般的ではなくなった
かつては親から子への事業承継が中心でした。しかし、かつてのように子どもが家業を継ぐこと自体がもはや一般的ではなくなってきています。大学進学が一般化して職業選択の機会が広がり、社長職よりも別の職業を選ぶ経営者の子どもが増加しました。
こうした時代の変化により、経営者である親も無理に会社を継がせることはせず、子どもには好きな道を自由に歩んでほしいと考えるようになってきているのでしょう。
そのため、たとえ経営者に子ども・親族がいても、後継者が決まっていない企業が多いという実情があります。
後継者不足問題の解決策
後継者不足問題を解決するにはいくつかの方法があります。ポイント別に解説していきます。
親族への事業承継
まずは、親族内から後継者を見つけて事業を引き継がせる方法です。親族であれば交渉や手続きが進めやすく、社内外からの理解も得られやすいというメリットがあります。
ただし、相続税や贈与税、事業買い取りなどの負担が後継者に大きくのしかかる可能性があります。そもそも後継者となる親族が、経営者としての資質を備えているか、会社を率いていく覚悟が十分にあるかどうかも慎重に見極めなくてはなりません。
親族への事業承継では、今の代の経営者が健康なうちに早い段階で判断し、時間をかけて後継者育成を施して、社内で徐々に影響力を浸透させていくことが重要になります。
社内外の人材への承継
親族の間で後継者が見つからない場合は、社内の従業員から後継者を探す、あるいは外部から第三者を招聘して事業承継する方法もあります。特に従業員の場合は、すでに業務を通じて事業内容や会社の実情にも精通しているため、育成がしやすい上に、利害関係者からの理解も得やすいというメリットがあります。
しかし、経営者から株式を引き継ぐことになるため、後継者にある程度の資金がないと、経済的に大きな負担を負わせることになるのも事実です。また、後継者が経営者に適しているかどうかは別問題となるため、時間をかけて育成しながら周囲の理解を得ていく必要があります。
株式公開
株式公開によって、新規に証券取引所に上場し、株式を証券市場に流通させることで、資本と経営を分離できます。一定数の株式取得は必要ですが、株式非公開の状態と比べれば、事業承継を進めやすくなるでしょう。
企業としての知名度やブランド、社会的な信用も増すため、資金調達がしやすくなるとともに、人材採用の面でも後継者候補となるような優秀な人材の獲得を期待できます。
また、上場企業にふさわしいガバナンス・管理体制を確立するための取り組みも強まり、企業としての透明性と信頼性が増すため、M&Aなどを行う場合には交渉を進めやすくなります。
廃業
廃業は、親族や従業員への事業承継がままならず、株式公開やM&Aによっても後継者問題が解決しない場合に、最後に取るべき手段となります。文字どおり、事業をやめて会社をたたむことを指し、会社が所有する土地や建物、商品在庫などを処分して債務を返済します。その後に残った金額を創業者利益として受け取れる場合もあります。
廃業は特に時期を選ばない手段になるので、任意のタイミングでプロセスを開始でき、次世代に負担を負わせることもありません。一方で、従業員や取引先に及ぼす不利益は相当なものになり、また受け継がれてきたノウハウや技術の逸失による社会的損失も無視できません。
まとめ
後継者不足は、今や日本の6割以上の経営者が頭を悩ませる問題です。廃業に踏み切る企業の背景には、少子高齢化や事業の将来性への不安、準備の遅れなどがあります。加えて昨今のコロナ感染拡大による影響も大いにあるでしょう。
親族や従業員への事業承継がままならない場合は、株式公開や、廃業という手もありますが、もう1つ、M&Aを通じて後継者不足を解決するという方法もあります。M&Aは複雑かつ時間を要するプロセスであるため、M&Aの専門家に相談するのが効率的です。M&Aというと買い手に有利とお考えの方もいるかもしれませんが、HLサクセションであれば企業オーナーの専属アドバイザーとして、交渉の相手方となる買い手からは報酬を一切頂かずに売却金額の最大化を目指します。後継者不足の解決方法としてM&Aによる事業承継を検討中の方はぜひ一度HLサクセションまでご相談ください。
記事監修
HLサクセション株式会社は、オーナー様企業における事業承継案件に特化した代理人型M&Aアドバイザリー会社です。「お客様の最善の利益のために」、オーナー様専属のアドバイザーとして、クライアントのご意向に沿ったM&Aの実現を徹底的に追求いたします。
後継者不足の実態を紹介 企業を存続させる解決方法は?