中小企業は日本の産業を支える重要な存在です。しかし、2000年以降は経営者の高齢化が進み、廃業や解散を検討する中小企業事業者が増加傾向にあります。多くの雇用が失われ、GDPに影響が出る可能性が高いことから、政府は事業承継を後押しする政策を打ち出しています。
この記事では中小企業事業者に役立つ事業承継・引継ぎ補助金について対象者、申請種類、申し込み手続きについて詳しく解説します。事業承継を検討中の経営者の皆様はぜひご参考ください。
事業承継には補助金が出る
中小企業事業者にとって事業承継は大きな課題です。「事業を継続したいが後継者がいない」「M&Aに興味はあるがどのように進めていけばいいのかわからない」など、中小企業が直面している問題に対して、政府は補助金やサポート制度を用意しています。
そもそも日本国内では全企業のうち中小企業の占める割合は99.7%となっており、すべての産業で欠かせない存在です。経営者の高齢化によって休廃業が進むと、多くの雇用が失われGDPにも影響が出ることは明白でしょう。
今後の日本経済の発展を考えると、中小企業の後継者問題を解決することは政府にとっても重要な位置づけとなるため、事業承継を円滑に進めるための政策を積極的に打ち出しています。
その一つが「事業承継・引継ぎ補助金」です。以前までは「事業承継補助金」という名称でしたが、2021年度は事業承継・引継ぎ補助金として制度運用されています。経営者交代、事業再編、M&Aなどさまざまな取り組みに対して補助金の申請が可能です。
事業承継・引継ぎ補助金とは
事業承継・引継ぎ補助金は事業承継を契機として、新しい会社のあり方を模索する中小企業を支援するための制度です。交付が決定すると、事業再編や事業統合に伴う経営資源の引継ぎなどで発生する経費の一部を、補助金として受け取れます。なお、本補助金の補助対象者は中小企業者等に限られます。中小企業者等とは、卸売業で資本金又は出資総額が1億円以下もしくは従業員数が100人以下、小売業で資本金又は出資総額が5千万円以下もしくは従業員数が50人以下など、業種によって定義されていますので要件をご確認ください。
補助金を受け取るためには、認定経営革新等支援機関と経営状況や事業計画の内容について相談を行い、交付申請をする必要があります。令和3年度(2021年度)の一次募集では「経営革新型」において申請総数335件から167件、「専門家活用型」において申請総数412件から346件の交付が決定しています。
令和2年度(2020年度)の第3次補正予算での申請と交付は終了していますが、令和3年度当初予算での申請受付が令和3年9月30日からはじまりました。来年度以降も継続する可能性が高い補助金制度となっているため、中小企業事業者は知っておくと事業承継に関する選択肢を広げることができるでしょう。
事業承継・引継ぎ補助金の対象者と補助率
事業の継続が困難になることが見込まれる中小企業事業者が、経営者の交代、事業再編、事業統合などの経営革新に踏み切る場合に補助の対象となります。ただし「経営革新型」と「専門家活用型」では、補助対象になる条件や支援対象者が異なるため注意が必要です。
「経営革新型」では経営者の交代や事業再編、事業統合をきっかけとした承継者による設備投資などが対象となります。一方、「専門家活用型」では事業再編や事業統合で活用するM&A専門家にかかる諸費用が対象です。ただし、公的な資金の使途として不適切と判断された場合は、補助金を受け取ることはできません。
経営革新型
経営革新型では事業費と廃業費について経費を申請できます。事業費では、新商品の開発、新たな販売方式の導入、マーケティングや広告に関する費用が補助対象経費となり、廃業費では、廃業登記、在庫処分、原状回復に関する費用が補助対象経費です。
経営革新型には経営者交代型(Ⅰ型)とM&A型(Ⅱ型)の2種類があり、補助率は補助対象経費の2分の1以内で補助上限額は経営者交代型で250万円以内、M&A型で500万円以内です。詳細は公募要領にて確認できます。
令和3年度当初予算 事業承継・引継ぎ補助金 経営者交代型 M&A型 公募要項
専門家活用型
専門家活用型ではM&Aにより経営資源の引継ぎを検討していて、専門家を活用する中小企業者が申請できます。中小企業だけでなく、個人事業主も対象です。ただし、不動産売買のみの引継ぎは経営資源の引継ぎに該当しないため、補助対象となりません。
専門家活用型には買い手支援型(Ⅰ型)と売り手支援型(Ⅱ型)の2種類があり、類型によって補助対象経費となる項目は異なりますが、謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料などが挙げられます。補助率は補助対象経費の2分の1以内で補助上限は250万円以内です。こちらも詳細は公募要領にて確認できます。
令和3年度当初予算 事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用型 公募要項
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新型)の2つのタイプ
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新型)には経営者交代型(Ⅰ型)とM&A型(Ⅱ型)の2つのタイプがあります。類型ごとに補助上限が異なる点がポイントです。Ⅰ型、Ⅱ型ともに事業承継を契機として経営革新等に取り組むこと、一定の実績や知識を有していることなどが求められます。
いずれの類型でも承継者と被承継者は、認定経営革新等支援機関に経営相談を行い、資格要件、事業計画、補助対象経費の内訳などを確認した後に指定の確認書を発行します。その確認書をもって交付申請へと進みます。
対象となる中小企業者は中小企業基本法に準じて定義されています。中小企業基本法では、業種分類によって資本金の額や常勤従業員数が変わります。例えば、製造業その他では資本金3億円以下または常勤従業員数300人以下、サービス業では資本金5千万円以下または常勤従業員数100人以下であることが中小企業の定義です。
【Ⅰ型】経営者交代型
経営者交代型(Ⅰ型)では、3つの要件が設定されています。事業承継に伴い補助金を申請する場合は、すべての要件を満たす必要があります。要件の概要は以下の通りです。
2.認定市町村や認定創業支援事業者により特定創業支援事業を受けている、もしくは一定の実績や知識を有していること
3.引き継いだ経営資源を活用して経営革新に取り組み、事業等創業をきっかけに雇用創出といった地域経済の活性化に貢献すること
【Ⅱ型】M&A型
M&A型(Ⅱ型)では、3つの要件が設定されています。事業再編や事業統合に伴い補助金を申請する場合は、全ての要件を満たす必要があります。要件の概要は以下の通りです。
2.認定市町村や認定創業支援事業者により特定創業支援事業を受けている、もしくは一定の実績や知識を有していること
3.引き継いだ経営資源を活用して経営革新に取り組み、事業承継をきっかけに雇用創出といった地域経済の活性化に貢献すること
要件2については、経営者交代型(Ⅰ型)と同様の内容です。要件3は経営者交代型(Ⅰ型)では「事業等創業」となっていた箇所がM&A型(Ⅱ型)では「事業承継」と記載されています。M&A型は名前の通り、企業や事業の合併や買収に主眼を置いたタイプと言えるでしょう。
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)の種類
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)には買い手支援型(Ⅰ型)、売り手交代型(Ⅱ型)の2つのタイプがあります。事業承継・引継ぎ補助金(経営革新型)と同様に、類型ごとに補助上限額が異なるため事前に確認しましょう。
使用目的が補助対象事業の遂行に必要であると明確に特定できる経費として認められると、補助金が交付されます。また、契約と発注は補助事業期間内に実施することが必須です。補助事業期間が完了した後に実施報告の提出が求められているため、支払金額が確認できる書類等も準備しておきましょう。
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新型)では、経営相談、確認書発行、アフターフォローを担う認定経営革新等支援機関がありましたが、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)では事業承継・引継ぎ補助金事務局(デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社)とやりとりすることになります。
【Ⅰ型】買い手支援型
買い手支援型(Ⅰ型)では、2つの要件が設定されています。事業再編や事業統合に伴う経営資源の引継ぎに関して補助金を申請する場合は、すべての要件を満たす必要があります。要件の概要は以下の通りです。
・経営資源を譲り受けた後に、雇用創出といった地域経済の活性化に貢献できる見込みがあること
買い手支援型(Ⅰ型)で認められる経費は、謝礼、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料があります。委託費については、ファイナンシャルアドバイザーやM&A仲介費用を申請する場合は「M&A 支援機関登録制度」に登録された専門家と業者のみが補助対象経費となるため注意が必要です。登録情報は中小企業庁ホームページもしくはM&A支援機関登録制度事務局ホームページで確認できます。なお、GCAサクセションは、M&A支援機関登録制度に登録しているアドバイザーになります。
M&A支援機関登録制度 登録機関データベース
【Ⅱ型】売り手支援型
売り手支援型(Ⅱ型)で設定されている要件は1つです。事業再編や事業統合に伴う経営資源の譲り渡しに関して補助金を申請する場合は、以下の要件を満たす必要があります。要件の概要は以下の通りです。
売り手支援型(Ⅱ型)では、買い手支援型(Ⅰ型)で認められる経費に加えて廃業に伴う経費の申請が可能となり、廃業費は廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費などがあります。経営資源の引継ぎには、株式譲渡、第三者割当増資、吸収合併などさまざまな形態があり、申請時にはさらに細かい類型番号に分けられます。
事業承継・引継ぎ補助金の申請手続き
事業承継・引継ぎ補助金では手続きに沿って申請を行い、事務局から必要かつ適切と認められると補助金が交付されます。補助金の交付申請は、経済産業省が運営する補助金の電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を利用します。
申請の手順とポイント(注意事項)は以下の通りです。
<申請手順>
2.gBizIDプライムのアカウント発行
3.gBizIDから交付申請
4.交付決定通知
5.補助対象事業実施
6.実績報告
7.補助金交付
<ポイント(注意点)>
・交付決定日以降に契約を行い支払った経費が補助対象経費として認められます。
・原則として2者以上の相見積もりが必須です。
・事業実施期間の終了日までに払い込みが完了していないと補助対象から除外されます。
まとめ
中小企業の後継者問題の解決に向けて、政府は積極的な支援を行っています。その一つが事業承継・引継ぎ補助金です。後継者を探すことはもちろん、会社がさらに発展していくための投資としても有効な制度です。
廃業を検討している場合でも、当制度を利用することでM&Aなどの選択肢を増やすことができます。事業が吸収もしくは合併されることで、これまでのノウハウを受け継いでいくことも可能です。事業承継・引継ぎ補助金は、今後の事業のあり方に悩む中小企業事業者にとって、活用すべき制度と言えるでしょう。
申請や制度の内容について分からないことがあれば、中小企業・小規模事業者向けの補助金・給付金等の申請や事業のサポートを目的とした経済産業省のWebサイト「ミラサポplus」でも簡単に調べることができます。
中小企業向け補助金・総合支援サイト ミラサポplus
記事監修
HLサクセション株式会社は、オーナー様企業における事業承継案件に特化した代理人型M&Aアドバイザリー会社です。「お客様の最善の利益のために」、オーナー様専属のアドバイザーとして、クライアントのご意向に沿ったM&Aの実現を徹底的に追求いたします。
事業承継・引継ぎ補助金とは?中小企業事業者に役立つ制度も