市場の変化が多い昨今、生き残りのためにM&Aを検討する企業は増加傾向にあります。特に中小企業の経営者に関しては、経営者の高齢化や事業拡大のために事業承継したいという需要が高まっています。しかし、一方でM&Aに関する知見不足のために第三者への事業承継をためらう経営者もいます。
中小企業のM&Aを後押しするために、経済産業省は2020年3月に「中小M&Aガイドライン」を策定しました。このガイドラインは、中小企業に対してM&Aに対する不信感を払しょくし、M&Aの基本事項を示すことで第三者への事業承継をスムーズに実現することを目的としています。
この記事では、中小M&Aガイドラインの内容や押さえておきたいポイントとともに、M&A業者の種類について解説します。自社にとって最適な形でM&Aを成立させるための情報として、ぜひ参考にしてください。
M&A仲介の利益相反とは
2020年12月18日、河野行政改革担当大臣は自身のブログで中小企業のM&Aが増加していることに触れ、同時に双方から手数料を受け取るM&Aは利益相反になる可能性があることを指摘しました。さらに、1月6日の大手証券会社のセミナーにおいては、現状の仕組みを改善するために中小企業庁へ働きかけると発言しています。
日本国内の中小企業のM&Aでは両手取引、すなわち売り手と買い手の間に同じ仲介会社が介入してM&Aを行う手法が多くみられます。仲介会社は買い手と売り手の双方から手数料を受け取り、どちらか一方の利益の最大化ではなく、両者が折り合う条件を目指して調整する役割を担っています。
M&Aにおいて売り手と買い手の利益は必ずしも一致しません。たとえば、価格交渉において売り手がなるべく高い金額で売却したいと考える一方で、買い手はなるべく安い金額で買収したいと考えたとします。双方の要望を同時に叶えることは不可能であり、どちらかの利害は必ず損なわれます。このような現状の仕組みに対して、利益相反であると問題視されているのです。
上場企業同士のM&Aや海外のM&Aにおいては、このような利益相反の問題が顕在化しやすいことから、売り手・買い手いずれかの一方に対して助言する役割をもつファイナンシャル・アドバイザー(FA)を活用することが一般的となっています。
河野行政改革担当大臣は、買い手と売り手の双方から依頼を受ける仲介会社の体制について、どちらかの経営者にとって不利益にならないよう改善の必要がある、と言及しています。
仲介型のM&Aでは売り手側が不利になりやすい
M&A仲介会社は、買い手と売り手双方のアドバイザーであるため、両方の利益を最大化させるために機能するべき立場にいます。しかし、実際のM&A仲介会社を介したやり取りにおいては、売り手側が不利になるケースもあります。
売り手が不利になる理由の一つとして、買い手は継続的な顧客になり得る、ということが挙げられます。買い手は今後もM&Aによる買収を行う可能性があります。買い手にとって有利な条件でM&Aを成立させられれば、信頼関係が生まれ、次の買収についても仲介の依頼を受けられる可能性が高くなるでしょう。一方、M&Aの売り手は、M&A締結後、仲介会社と関わる場面は基本的にありません。M&A仲介会社は基本的に両者の提示する条件をもとに折衝をしますが、状況によっては買い手に有利に働くよう交渉を進めてしまう可能性があります。
また、交渉戦術が筒抜けになる恐れがあることも、売り手が不利になる要因になります。M&A仲介会社は買い手と売り手の双方の状況を把握できます。売り手の後継者問題や買い手候補が見つからないという状況が買い手に伝われば、条件交渉において不利になることが考えられます。
特に中小企業の事業承継においては、売り手側のM&Aの知見が無いことがほとんどです。どうすれば適切に事業承継ができるかが分からず二の足を踏んでいる経営者も多いでしょう。
中小M&Aガイドラインとは
経済産業省は中小企業のM&Aを支援する取り組みとして、「中小M&Aガイドライン」を公開しています。このガイドラインは、第三者への事業承継に向けて、中小企業の経営者が適切に進めるための行動指針として提示されたものです。ここでは、中小M&Aガイドラインの目的や概要について解説します。
趣旨と目的
中小M&Aガイドラインは2015年に公開された「事業引継ぎガイドライン」を全面改定し、2020年3月に公開されました。
中小M&Aガイドラインの目的は、中小企業のM&Aをスムーズに進め、廃業や雇用の喪失を防ぐことです。中小企業の経営者は70歳以上の高齢者が多く、後継者が未定となっているケースも珍しくありません。第三者への事業の引継ぎに抵抗がある方やノウハウを知らないためM&Aをどう進めたらいいかわからない中小企業の経営者に対し、M&Aに関する基本的な知識を解説しています。M&Aについて、単なる考え方や必要な工程のみならず、M&Aの仲介会社に支払う費用についても言及しています。
概要
中小M&Aガイドラインでは、中小企業がM&Aになかなか踏み切れない要因として以下の3つをあげています。
2. M&A業務の手数料等の目安が見極めにくい
3. M&Aを進めるための支援に対して不信感がある
これらを解決するためのポイントは、「後継者不在の中小企業向けの手引き」や「支援機関向けの基本事項」の章で解説されています。具体的に示されている目安や行動指針について確認しましょう。
M&Aに関する知見がなく、進め方が分からない
事業承継をしようと思い立っても、どう進めたらよいかが分からない経営者は多くいます。中小M&Aガイドラインでは、知見がまったくない状態でもM&Aがどのようなものかイメージできるように、具体的なM&Aの事例が多く紹介されています。単なる成功事例ではなく、経営状況が良好でない場合や従業員からの反対がある場合など、さまざまな状況下でM&Aが成立した事例が示されているため、自社が置かれている状況や悩みに応じて進め方を学ぶことができます。また、M&Aが成立しなかった事例も紹介されているため、失敗を防ぐためのヒントとしても役立つでしょう。
合わせて、M&Aにおける売り手側の基本姿勢にも言及されています。具体的に示されているのは、中小企業のM&Aに関する認識の変化や、従業員や取引先にとってのメリットなどです。売り手側に対する買い手側の意識にも言及されています。
さらに、M&Aの具体的な進め方について、自社の動きと支援機関の動きがフロー図で分かりやすくまとめられています。事業承継を進めるにあたり、各プロセスにおいてやるべきことや留意点の把握ができます。
M&A業務の手数料等の目安が見極めにくい
M&Aに慣れていない中小企業にとっては、M&A業務の手数料がどれくらいかかるのか判断しづらいでしょう。中小M&Aガイドラインでは、手数料に関して目安となる考え方が示されています。
具体的には、M&A プラットフォームを利用したマッチングにおいて、M&Aの成立まで手数料が発生しないケースが多いという点、今後は状況が変化する可能性もあるということが示されています。また、仲介会社や専門家へ依頼する場合は、別途手数料がかかる点についても言及されています。
実際にM&A プラットフォームでマッチングが成立した場合に発生する手数料についても、具体的な計算式とともに事例が紹介されています。相場額が提示されているわけではないものの、中小M&Aガイドラインで目安を確認すれば客観的な判断が可能です。
同時に、全47都道府県に設置されている中小企業の事業承継をサポートする事業承継・引継ぎ支援センターで行っているM&Aへの支援体制についても言及されています。
M&A支援に対する不信感
M&Aには実際に進めないと不明瞭な部分が少なからずあります。その点について、特に売り手側にとっては不信感を感じる点ではないでしょうか。
そのような状況を支援するため、中小M&Aガイドラインでは買い手側や売り手側だけでなくM&Aの仲介会社向けの内容も記載しています。特に「第2章 支援機関向けの基本事項」では、仲介会社が意識すべき基本的な姿勢が示されています。売却を考えている中小企業の経営者にとっても役立つため、一読しておきましょう。
たとえば、仲介会社は売り手と買い手の双方から手数料を受け取るため、利益相反となる可能性があることや、テール条項に対する期間の制限についても示されています。テール条項とは、契約終了後に成立したM&Aについて、一定期間仲介会社の手数料取得を認めるための条項です。仲介会社の手数料や報酬金に関する知識を深めることで、よりM&Aに関する知見が深まり、不信感を払しょくできるでしょう。
また、一部の仲介会社において、売り手および買い手と締結する仲介契約は、締結後一定期間解除できないこともあります。事業承継等を目的とするM&Aにおいて、長期間も多様な選択肢を制限されることは大きな制約となります。検討する場合には、慎重に契約内容を確認するようにしましょう。
M&Aにおける仲介とFAの違いとは
M&Aは、仲介会社ではなくFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に依頼して進める方法もあります。仲介会社とFAの役割は一見似ていますが、実際にはまったく異なる立場からM&Aを推進します。ここでは、M&Aにおける仲介会社とFAの違いについて確認しましょう。
仲介
仲介会社は買い手と売り手の間に入り、両者に対してアドバイスします。客観的な立場で買い手と売り手が求める条件や希望を確認し、両者が納得できる形で契約成立を目指します。基本的な仕組みは、不動産仲介会社による貸し主と借り主のマッチングに近いです。
仲介会社は、買い手と売り手の両方のために活動し、それぞれから手数料を受け取ります。たとえば、1億円で売買が成立し、手数料は5%だとしましょう。この場合、買い手と売り手の両方からそれぞれ500万円を受け取るため、合計で1,000万円の報酬を得られます。
この構造では一方の利益がもう一方の不利益になる可能性があるため、昨今では利益相反に該当する可能性があると指摘されています。
FA
FAとは「ファイナンシャル・アドバイザー」のことを指します。FAもM&Aに関するアドバイスをする点は仲介会社と同じですが、買い手と売り手のどちらか一方のみから依頼を受ける点が大きく異なります。
FAは買い手または売り手の利益のみを考え、利益を最大化するための助言をします。この構造は、弁護士が依頼を受ける場合と似ています。
M&Aにおいて、FAは一方のみから依頼を受けるため、手数料も一方からしか受け取りません。1億円で売買が成立し、手数料が5%であれば、FAは依頼主である買い手または売り手のどちらか一方から500万円を受け取ります。
利益相反の問題が指摘されている仲介会社とは異なり、FAでは一方の利益を最大化するべくM&Aを進めるため、売り手側が自社の利益をしっかりと主張できます。
M&Aマッチングサイトとは
M&Aの成立を目指す場合、仲介会社やFAに依頼する方法のほかにも、M&Aマッチングサイトを利用する方法があります。M&Aマッチングサイトを利用すれば、M&Aが成立するまで売り手側には手数料がかかりません。幅広い相手にアピールできるため、より良い売却先に出会える可能性があります。
ただし、M&Aマッチングサイトに登録しているのは、買い手となる企業だけでなく、仲介会社も多いのが実情です。そのため、実際には仲介会社に依頼するのと変わらない可能性もあります。
また、公開される情報は限定的であるものの、取引先がM&Aマッチングサイトを見ていればM&Aを検討していることが知られるリスクもあります。
M&AマッチングサイトでM&Aを成立させるにはすべてを自社で対応する必要があるため、手間と時間がかかる点も理解しておきましょう。
中小M&Aガイドラインで後継者問題解消の後押し
すでに触れたとおり、中小M&Aガイドラインは、2015年に策定された「事業引継ぎガイドライン」をもとにしています。中小企業のM&Aは、2017年時点ですでに3,000件を超えていました。
後継者不足に悩む中小企業は増加しており、政府はM&Aによる問題解消を後押ししています。M&Aガイドラインを活用することで、事業承継を検討している中小企業の経営者がスムーズにM&Aを進めるために必要な基礎知識も修得可能です。M&Aの仲介会社向けの指針も示されているため、一読すれば優良な業者を見極めやすくなります。
M&Aガイドラインを参考にして納得のいく形でのM&A成立を目指し、スムーズな事業承継を実現させましょう。
まとめ
後継者不足の問題を解消する方法として、M&Aを選ぶ企業は多くなっています。経済産業省がまとめた中小M&Aガイドラインでは、M&Aに関する基本的な内容が分かりやすくまとめられています。スムーズに事業承継するため、中小M&Aガイドラインを参考にしながら最適な条件や方法を検討しましょう。
ただし、すべてを自社で対応するのは難しいケースも多いため、信頼できる業者を見極めて相談すると安心です。GCAサクセションは、事業承継やM&Aのサポートを行っています。手数料を一方からしか受け取らない代理人型アドバイザー方式を採用しているため、利益相反が生じることはなく、依頼者の希望に寄り沿った事業承継の実現が可能です。中小企業の経営者の方で事業承継についてお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
記事監修
HLサクセション株式会社は、オーナー様企業における事業承継案件に特化した代理人型M&Aアドバイザリー会社です。「お客様の最善の利益のために」、オーナー様専属のアドバイザーとして、クライアントのご意向に沿ったM&Aの実現を徹底的に追求いたします。
中小M&Aガイドラインとは?基本事項やポイントを紹介